目的
1983年より2009年迄26年間続いた武力紛争は民族抗争が根底にあり、テロや外国の軍事介入をも含まれ泥沼化した。生活は破壊され、子どもの健康と発育は大きく阻害されたと考えられる。
研究目的は、長年内戦が継続していたスリランカの紛争地の子どもの健康に対する武力紛争の影響を調査し、保健医療施策に資することである。
方法
対象地域は、スリランカ国東部州トリンコマレ県11郡中、最大紛争被害を受けたと考えられる郡と、紛争被害が微少と考えられる郡の各1郡とした。その内第8・9学年を有する公立学校(日本の中学相当)を、高被害地域と低被害地域から各々5校、合計10校を選んだ。
対象者は、各校第8・9学年1クラスずつを選択し、各クラスから満12歳以上の20名を抽出した400人である。
調査方法は、まず英文質問票を作成し、現地研究協力者と現地専門翻訳者がタミル語とした。質問票を回収後、タミル語の回答は前述の協力者と翻訳者に英訳を依頼した。期間は2009年7月5日から7月31日に行った。
解析方法は、体重、身長とBMIの平均値の地域間比較、 精神的健康では、GHQ-12の回答を数値化し因子分析を行い、抽出した因子の平均値の地域間比較、社会環境では2地域の各種要因の頻度比較を行い、検定は各々F検定、t検定、カイ二乗検定を使用した。本研究は、日本赤十字九州国際看護大学の研究倫理審査委員会の承認を得た。
結果
体重・身長・BMIの平均値について、紛争被害「高」地域の平均値は、被害「低」地域の平均値より小さく、各差は2.5kg、1.4cm、0.8で、全てに有意差を認めた。
また、被害「高」地域の既往疾患は、感染症、風土病の経験が被害「低」地域よりも有意に高かった。
地域別精神健康の特徴では、GHQ-12の因子分析で4因子を得たが、「緊張と不安を伴ったうつ状態」は両地域間で有意差はなかった。
紛争直後の社会環境では、食糧の確保可能の割合は被害「高」地域で有意に高く、その他に両地域の差はみられない。また子どものサポート環境が良いことがみられる。
結論
武力紛争地の青年前期の子どもは、紛争の影響を受けると身体的健康では低体重・低身長が表れ、感染症や衛生環境に関連する疾病に罹患しやすい。紛争地での介入には、学童期から青年前期の子どもの成長・発達を考慮して、身体計測や食糧配給の充実が重要であると考える。