目的: 我々は,産業分類および事業場規模別の産業医活動の課題を明らかにするために,嘱託産業医が作成した活動記録(産業医活動記録票)を用いて,その活動実態を調査した. 方法: 嘱託産業医として活動している11名の医師(研究協力者)の協力を得て,96事業場561枚の産業医活動記録票を収集した.産業医活動記録票から,契約先事業場の業種,および産業医による事業場への出務回数,職場巡視の実施回数,健康管理活動の実施回数を調査した.また,作業環境管理,作業管理,健康管理,総括管理に関する年間の活動状況を調査した.産業分類(第二次産業,第三次産業)による2群間の比較検討,さらに産業分類に加え,従業員数100人以下の事業場群(≤100群)と101人以上の事業場群(≥101群)とに分けた4群間での比較検討を行った. 結果: 全ての嘱託産業医による事業場への出務回数の中央値は4回/年であり,第三次産業における事業場への出務回数は,第二次産業に比べて有意に少なかった.具体的な産業医活動に関して,リスクアセスメントへの参加,過重労働対策,労働衛生管理体制の構築・年間計画の策定で,第三次産業は第二次産業に比べ有意に低かった.産業分類別の従業員数による比較では,事業場への出務回数,職場巡視の実施回数において,≤100群は≥101群に比べ有意に少なかった. 考察: 本研究から,第三次産業や100人以下の小規模事業場では十分な嘱託産業医活動が実施されていない可能性が示唆された.第三次産業や小規模事業場における労働衛生サービスの提供方法や嘱託産業医活動の在り方に関して更なる検討を行い,事業場と嘱託産業医の双方の活動を支援する総体的な仕組みが必要であると考えられる.