本稿は,超有機体的文化が文化景観を形成するとする従来の全体論的な理論の反省から,演繹的な景観解釈モデルを構築し,それを合衆国ルイジアナ州における墓地景観の解釈に適用したものである。まず,究極的には個人のみが墓地景観を形成する営力になりうるとの前提から,人間の行為のモデルを構築した。このモデルによると,文化は人間を支配する実体として捉えられるのではなく,個々の人間が自分の意志に基づいて行う集団へのアイデンティティの表現とみなされ,その文化は集団間の比較のみによって発見される。各々の個人が表現するアイデンティティの対象は様々であるので,文化はいわゆる文化地域間の比較からのみではなく,宗教,人種都市・農村など様々な集団の比較によって発見されうる。本稿では,その中から (1) 北ルイジアナと南ルイジアナ, (2) カトリックとプロテスタントという2対の集団の墓地景観を比較することによって,それぞれの文化を発見することを試みた。層別抽出法によって抽出された236の墓地の実地調査と,その後の分析・統合の結果,本稿で構築したモデルが,従来の超有機体的理論と比較して,分布の説明,体系的な叙述,地域区分,集団の特性の理解などの文化地理学の目的追究のうえで,より効果的であることが示された。