澱粉の糊化特性におよぼす清酒の影響が清酒中のいかなる成分によりもたらされるのかを検討した.まず馬鈴薯澱粉とコーンスターチについて清酒, 煮切酒, アルコール添加の効果をアミログラムで確認した.次に清酒と煮切酒の差を知るために, 加熱による清酒の成分変化を燗酒, 点火の煮切酒, 煮つめの煮切酒について調べた.さらに馬鈴薯澱粉の糊化特性に対して影響をもつと考えられる酸, pH, 塩濃度についてそれらの影響を検討した.その結果, 以下の知見が得られた. 1) 清酒の加熱による成分変化は, 燗程度の加熱では観察されなかった, 点火および煮つめの煮切酒では清酒に比してアルコール分が減少したが, 他の成分変化はほとんどみられなかった. 2) アミログラフにより測定した清酒の澱粉に対する影響は, 馬鈴薯澱粉に顕著であった, 清酒および煮切酒の添加により粘度は著しく低下した.両者の粘度曲線には差異が認められたが, これはアルコールによるものであることがわかった.コーンスターチへの影響は, 前報同様にアミログラムにおいてもほとんど認められなかった. 3) 清酒と煮切酒は, 馬鈴薯澱粉粒子の膨潤を抑制することがわかった.エタノールは80℃付近での膨潤を抑制した. 4) 清酒に含まれる有機酸と有機酸塩濃度に相当する量の酢酸-酢酸ナトリウムおよびコハク酸-コハク酸ナトリウム溶液と, それにアルコールを加えた溶液では, おのおの煮切酒と清酒にほぼ対応したアミログラムが得られた.pHとナトリウムイオン濃度はともに粘度に影響を与え, 前者は正の相関, 後者は負の相関を示した. 清酒, 煮切酒の示すpH域では, 馬鈴薯澱粉の粘性に対する清酒の影響は主として清酒中のナトリウム等の塩濃度によるものと思われる.