においの抑制効果があるとされる乳製品と,特徴的なにおいを持つ野菜ピーマンを組み合わせ,乳製品のピーマンの加熱臭抑制効果を検証した.ピーマンの加熱臭の指標として2-isobutyl-3-methoxypyrazine (2-I-3-MP)を選定し,ピーマンのみ加熱した場合(A)と加熱したピーマンと乳製品等を合わせた場合(B)での2-I-3-MPの強度の比較をGC-MS分析によって実施した.プロセスチーズ,ヨーグルト,牛乳,バター,植物油と合わせたピーマンでは2-I-3-MPが10%以下に抑制されたが,脱脂粉乳溶液,純水と合わせたピーマンでは2-I-3-MPの抑制は31%,42%に留まった.この結果からピーマンの2-I-3-MPの抑制効果はタンパク質より油脂成分で大きく,牛乳における2-I-3-MPの抑制は牛乳中の油脂成分による影響が大きい可能性を推察した.GC-MSによって分析した試料と同条件で調製した試料を用い,ピーマンの加熱臭の低減がヒトの鼻で感じられるかを官能評価にて検討した.Aの場合とBの場合のにおいを一対ごとに比較し,Aの場合の評点を0とした時の,Bの場合のピーマンの加熱臭の評点を1サンプルのt検定19) を用いて定数0との差を解析した.チーズ,ヨーグルト,牛乳,バター,植物油と合わせた試料Bの場合が有意にピーマンの加熱臭が弱い( p< 0.05)という結果になった.脱脂粉乳溶液,純水と合わせたピーマンでは有意差はみられなかった.GC-MS分析で10%以下に2-I-3-MPが抑制された場合に,官能評価でピーマンの加熱臭の低減が感じられた.これはWeber-Fechnerの法則16) ∼18) で表されるように,においの大きさは濃度の対数に比例するため,2-I-3-MPの抑制後も閾値以上の2-I-3-MPが存在し,2-I-3-MPの量が対数的に減少した場合にピーマンの加熱臭低減として感じられたと考えられる.また,植物油よりも乳製品の平均評点が低かったことから,乳製品のにおい低減効果は大きいと判断できる.即ちピーマンの特徴的な香気成分である2-I-3-MPが抑制された状態で乳製品由来のにおいを同時に嗅ぐことにより,ピーマンの加熱臭の低減が官能的により感じやすくなると推察した.