断熱型熱量計を用いて熱容量とエンタルピー緩和速度を測定することにより,1)シリカMCM-41,2)デキストランゲルsephadex G10,3)水溶性牛血清アルブミン(BSA)それぞれの細孔水の熱挙動を50〜300Kの温度範囲で調べた.3つの細孔壁は,親水性/疎水性,細孔形状,形状柔軟性等において異なる.MCM-41には細孔直径1.5〜5.0nmを用い,過剰量の水を添加した.G10とBSAの測定には,それぞれ水分量(無水物に対する水の質量比) h= 0.273と0.321を用いた.MCM-41細孔水は直径2.1nm以下で115,165,210Kの複数の温度付近でガラス転移を示した.115Kは細孔壁に接した界面水分子に因る.後者2つは内部水に因り,細孔径の増大とともに転移温度は階段的に上昇した.各ガラス転移は低温からそれぞれ,配置変化が2,3,4本の水素結合を切断して進行する過程に対応するものと解釈した.G10細孔水が273K付近で取り得る配置の数はバルク水,さらにはMCM-41細孔水に比較しても少ない.室温付近ではゲル高分子自身の配置変化も進行しながら,細孔水に可能な配置数が増大している.BSA細孔水が取り得る配置の数は,室温でも少なく, h= 0.321ではBSAの高次構造がBSA分子内の相互作用で決まり,非晶性細孔水は狭い隙間にあることを示唆する.