古代ローマ法における特示命令が行政的と評される所以は、その要件・効果における訴権との対比にあるが、近年におけるその研究動向にあっては、先進・中心史観を脱した地域史・属州史や考古学の成果を踏まえ、行政ないし統治作用としての法的規制・規律を論じるに際してその素材として特示命令に言及する潮流が見出される。古代ローマ法学が法学と史学の交錯する場であるのと類比的に、特示命令研究と行政を巡る法制史の双方に跨るこの分野は、特示命令による保護の内容や手続を解明する論考と、自覚的に行政の在り方を法制史的に分析する論考とに下支えされており、従ってそうした研究や隣接諸科学の成果を摂取することで、自ずと新たな論点や方法論への展望が開かれるものと考えられる。