清酒酵母きょうかい7号(K7)とその近縁株は強いアルコール発酵力を有する。その分子レベルでの機構は長年不明であったが,著者らにより RIM15 の機能欠損に起因することが明らかとなった。他方,K7は子嚢胞子の形成能がきわめて低いが,これも RIM15 の機能欠損に因る。ゲノム解析の成果によって,一見,掛離れたこれら二つの表現型には実は同じ一つの遺伝子が関連していることが示された。ここでは主に RIM15 の機能欠損が高発酵力を生み出す機構について著者らの研究を中心に紹介していただいた。この知見は RIM15 の改変による実用酵母の改良育種にもつながる。 RIM15 同様の遺伝子は広く高等生物にも保存されており細胞周期の調節と密接に関連している。今後もこのように醸造用酵母の解析を発信源とした生命現象の本質に迫る研究が期待される。