本研究では,解釈レベル理論に基づき,(1)観察された行為事象との心理的距離によって生起しやすい自発的推論が変化するか,(2)その結果,特性に基づく行為者の将来の行動予測がどのような影響を受けるのかについて検討した。4つの実験を通じて,特性の推論は観察事象との心理的距離が近い場合より遠い場合のほうが生起しやすく,目標の推論は観察事象との心理的距離が遠い場合より近い場合のほうが生起しやすいことが示された。加えて,心理的距離が遠い行動を行った行為者の方が近い行動を行った行為者に比べて推論された特性に基づいて将来の行動が予測されやすいことが窺われた。これは,行為事象との間に知覚された心理的距離に応じて,駆動する情報処理の抽象度が変化し,距離が遠いほど行為事象は抽象的に解釈され,特性の観点から行動が解釈されやすいのに対し,距離が近くなると行為事象は具体的に解釈され,一時的な行為目標の観点から行動が解釈されやすくなることを示唆している。以上の結果から,潜在レベルで生起する推論が文脈の影響を受けやすい性質をもつこと,潜在レベルの推論が顕在レベルの判断を一定程度規定することが考察された。