1990年代以降,ニホンジカなどの増加と相まって,全国的にニホンヤマビルの分布拡大や吸血被害の増加が問題化している。被害対策を検討する上で,増加しているニホンヤマビルが昔はどこにいたのか,といった過去の分布情報は重要である。しかし,過去のニホンヤマビルの全国的な分布を扱った研究は少なく,特に1945年以前の分布情報は乏しい。本研究では,学術文献,紀行文および山岳書を基に,江戸時代中期から1945年までと,1946年からニホンヤマビルの分布拡大が生じる以前の1980年代までの二つの年代における全国のニホンヤマビルの分布情報を整理し,現在の分布と比較した。その結果,ニホンヤマビルは,東北地方,中部地方,紀伊半島および九州の一部の限られた山岳地に1945年以前から分布し続けていた。一方,九州の英彦山や伊豆の天城山のように,明治中期以降にニホンヤマビルがみられなくなった山岳もあることが示唆された。