本研究では製パン現場を想定したノロウイルスの挙動を詳細に解析することを目的とした.代替ウイルスであるMurine norovirus strain 1(MNV-1)を用いて,製パン現場におけるMNV-1の移行性や焼成中のパン生地におけるMNV-1の生残性を調査した.はじめに,製パン現場で起こり得るラテックスグローブやスライサー等の表面からパン生地や焼成後のパンへのMNV-1の各種移行性を調査した.その結果,MNV-1はスライサーやラテックスグローブ表面から食パンへ複数回連続して移行した.さらに,生地に含まれる砂糖や乳脂肪分含量がMNV-1の加熱耐性に与える影響を検証した.異なる濃度のスクロースあるいは乳脂肪を含むパンケーキ生地にMNV-1を接種し,60℃で5分間加熱した.生地に著量の砂糖や乳脂肪分が含まれることで,生地中におけるMNV-1の生残率が高まった.本研究で得られたデータは,細菌性食中毒のリスクとして認識されてこなかったパン類がノロウイルス食中毒のリスクになりうることを認識するための有用な情報になると考えられる.