左側頭葉後下部性失読失書 1 例と対照群 5 例に対し, 仮名文字列の語彙性判断検査および仮名実在語の音読-意味説明検査を, 呈示時間を統制した上で実施し, その成績や反応潜時の分析から仮名文字列の読み方略について検討した。その結果, 逐字音韻変換が機能し得ない短呈示条件下で本例はチャンスレベルを超える語彙性判断能力を示したが, それに比し音読や意味説明能力は低下が顕著であり, 欧米語圏で報告されている潜在性読みが観察された。以上より, 本例は単語形態熟知性の高い文字列を視覚的な「まとまり」として捉え, それが既知であるとの判断は概ね可能だが, それを音韻に変換するか意味にアクセスする過程に障害を呈していた。このような傾向は, 左側頭葉後下部性失読失書と病態的に近似していることが指摘されている日本語話者の純粋失読例にも認められる可能性が考えられた。この点については症例の蓄積を重ね, 今後検討を行う必要があると思われた。