マツノザイセンチュウ(線虫)はマツ材線虫病の病原体であり,マツノマダラカミキリ(カミキリ)によって伝播される。本研究では,カミキリの産卵痕経由でクロマツ枯死木に侵入した線虫の樹体内での分散様式,およびカミキリ成虫の線虫保持状況を明らかにするための実験を行った。伐倒により枯死した後カミキリ成虫に産卵されたマツ(産卵痕侵入区)と,マツ材線虫病の自然感染により枯死した後カミキリ成虫に産卵されたとみなせるマツ(自然区)の2処理区を作った。産卵痕侵入区では,カミキリの痕跡(産卵痕,幼虫の食痕,成虫の脱出孔)のない無傷の材部に線虫はほとんど存在していなかったが,自然区のマツでは高頻度で線虫が検出された。また,枯死木から脱出したカミキリ成虫の保持線虫数は両処理区間で違いがなかったが,10,000頭以上線虫を保持したカミキリ成虫の出現頻度は産卵痕侵入区の方が自然区より高かった。これらの結果から,マツ材線虫病以外の要因で枯死したマツに産卵痕経由で線虫が侵入した場合,線虫は樹体全体に拡がりにくいこと,またそのようなマツから脱出したカミキリ成虫でも,線虫を数多く運び出す可能性があることが実験的に示された。