表情識別には, 皮質のみならず皮質下の脳領域の関与も示唆されており, びまん性軸索損傷 (diffuse axonal injury, 以下 DAI) による表情識別能力の低下が示されているが, その報告 数はあまり多くない。 本研究では, 若年 DAI の男性患者を対象に, 表情刺激の表出強度を段階的に変化させながら, 実験心理学的手法に基づいて基本 6 表情の識別閾を測定できる課題を実施し, その成績を年齢が統制された若年健常者と比較した。その結果, 表情種に関わらず, 若年 DAI 群の表情識別の閾値は, 若年健常群に比べて高いことが示され, 局所損傷を持たない DAI であっても, 表情識別能力が低下していることが明らかになった。