昨今、青年の「向社会性」の発達の不十分さが指摘されることが多い。向社会性の発達には、内的媒介過程として、動機づけ機能である「共感性」、及びその場で道徳的判断を行う認知機能としての「向社会的判断」の発達が重要である(菊地、1983;堂野、1996、2008)。共感性の発達には、まず自らの「直接的共感経験」の程度が影響すると予想する。また、向社会性の発達にモデリング(Bandura,1977)の効果性が高いことは度々指摘されているが、上記の二つの媒介機能への影響のあり方については、必ずしも明らかとなっていない。またモデリング研究においては従来、行為の「行い手」の観察の効果に関する分析が殆どであった。しかし、現実場面では、同時に「受け手」も観察しているのである。向社会的行動の行い手の観察により、「○○するのは良いことだ」といった上記の「向社会的判断」の発達が進み、受け手の観察により、「○○されてよかった」といった「共感性」の発達が進むのではないかと予想する。そこで本研究では、女子大学生に回想法により高校時代について、(1)直接的共感経験の程度、また向社会的行動のモデリングについては、(2)行い手の観察により感じた向社会的判断の程度、及び(3)受け手の観察により感じた共感性の程度を尋ね、これらの要因と(4)高校時、(5)大学現在の向社会性の発達との関連について、それぞれ検討を行った。