摘要:11年間周防猿まわしの調教をうけたニホンザル大腿骨の断面力学的形状を調査した.安定した二足性をサルに獲得させることは調教の過程で非常に重要な要素になっている.断面像は X 線断面撮影(CT)装置により,小転子直下と大腿骨中央で撮影された.調査の結果,面積,断面二次モーメントは通常のニホンザルに比べ非常に大きな値を示し,二足性による後肢への負荷の増大に対し大腿骨が力学的に適応したことを示唆した.力学的強度の増大が顕著に認められるにもかかわらず,曲げに対する断面の力学的形状はサル的なパターンを示し,ヒトのパターンとはまったく異なる.関節角度,EMG,床反力などによる運動学的研究もニホンザルの二足姿勢,歩行がヒトのものとは大きく異なることを認めている.二足性の獲得に伴って起こったと考えられる断面形状の変化は,大腿骨中央部よりも小転子直下において顕著に認められた.このことは,二足時に屈曲した股関節を維持するたあ発生する負荷がこの部位にとりわけ強く作用することを示唆する.