摘要:ヒトの骨強度,骨密度については従来多くしらべられているが,遺伝的要因や生活環境要因による個体差が大きいので,運動負荷や栄養条件が骨に及ぼす影響を厳密にしらべることはむづかしい。そこで成長期の実験動物を用いて1日当たりの運動負荷の量と食餌摂取量の違いが骨強度,骨密度に及ぼす影響をしらべた。SD系雄ラット40匹を摂食量と強制走行運動負荷の量の組み合わせにより,(I)普通食一非運動群,(II)普通食一中等度運動群,(III)制限食一非運動群,(IV)制限食一中等度運動群,(V)自由食一非運動群,(VI)普通食一強運動群の6群に分けて21日令から110日令まで餌育した。普通食群(I, II, VI)と制限食群(III,IV)では給餌時間帯を1日2回合計2時間に設定し,この給餌時間帯に普通食群は自由に摂食を行なわせ,制限食群には普通食群が摂取した重量の約60%を摂食させた。自由食群(V)は常時自由に摂食させた。運動負荷はストレスが少ないと考えられる新式トレッドミルを用いて中等度運動群(II, IV)には1日20分,最高速度約40m/分の強制走行運動負荷を与えた。強運動群には10分間のインターバルをおいて同様の負荷を1日に2回与えた。動物の飼育は12時間おきの明暗サイクルの下で行ない,運動負荷と摂食の時間帯を一定にして自発運動量や摂食量による個体差が少なくなるように配慮した。動物の最終体重は,同じ摂食条件の群の間で有意差は認められなかった。右側大腿骨は3点曲げ試験により,骨幹中央部前面に矢状方向の荷重を加えて極限荷重量を測定し,極限曲げモーメント(骨全体としての曲げに対する強度)を計算した。さらに破断部を接着復元後に切断して,その横断面の写真から計測した断面特性値と曲げモーメントにより,極限曲げ応力(曲げモーメントからサイズ要因を除いたもの)を算出した。また,大腿骨骨幹部の試料を用いて単位体積あたりの灰分重量の測定を行なった。その結果つぎのような事柄が明らかになった。1)摂食量の制限は曲げモーメントに対して有意の負の効果を及ぼしたが,曲げ応力と灰分重量に明確な効果を及ぼさなかった。2)中等度の運動負荷は曲げモーメントには一定の効果を及ぼさなかったが,摂食量にかかわらず,曲げ応力と灰分重量を増加させる傾向を示した。3)過大な運動負荷量は曲げ応力と灰分重量に顕著な負の効果を及ぼした。すなわち,1日当たりの運動量が約2倍に増加することによって,効果の逆転が認められた。