摘要:安静酸素摂取量の上下臨界温度はヒトの温熱適応能の総合的指標と看倣されており,下臨界気温the lower critical air temperatureについては, ERIKSON et al.(1956)が,環境気温37°Cのときは生体と環境との熱収支は零になること,及び,環境気温の低下に伴う体表からの放熱はNewtonの冷却の法則に従って気温低下に比例して増加するという仮定のもとに,簡便な推定法であるintersect methodを提案して以来,その推定が可能になり,幾つかの結果が発表されている。それらによると白人の下臨界気温はほぼ25°Cと27°Cの間に存在し,日本人の下臨界気温は24°C(YOSHIMURA and YOSHIMURA 1969)或は21.7°C(石井1976)とされている。しかし,上臨界気温the upPer critical air temperatureや上下臨界体温the upPer and lower body temperaturesについては,その概念は広く知られているにも拘らず,推定方法も開発されておらず,従って実際にその温度を決定した研究もないようである。本研究は9人の成人男子により,気温20°Cより50°Cに至る環境条件に長時間曝露を行った際の安静酸素摂取量と体温の測定結果にもとついて,酸素摂取量の気温及び体温に対する多項式回帰を求め,酸素摂取量の最小値の信頼上限に対応する気温と体温を,酸素摂取量から各温度への変換式を求めた上で決定して,上下臨界温度を推定する新しい方法を考案し,それを実行した結果を示したものである。その結果,下臨界気温は23.8°C,上臨界気温は45.4°C,上下臨界直腸温は37.9°Cと,35.5°C,上下臨界平均皮膚温は35.9°Cと30.0°Cと決定された。新推定法はthe polynomial equation methodと命名された。