摘要:アムッド人(西アジア地域で1961年に発見されたネアンデルタール人)の手骨の記述および検討は著者によってなされた(ENDO and KIMURA, 1970)。アムッド人にはほとんど完全な第1中手骨が一本発見されている。この骨を著者は左側と記載した。チェコスロバキアのVLCEK博士は1975年にこの骨が右側であることを指摘した。著者は先の誤りを認め,アムッド人の第1中手骨の記載の訂正をこの文において行う.1970年の論文中の該当箇所はこの文にある通り読み替えられるものとする。この記載訂正のために,著者は現代インド人,現代日本人および縄文時代人の第1中手骨の観察を行った。これにより左右差の記載を主に関節面と筋付着部の形態から行った。またアムッド人によく発達している母指対立筋の付着部について特に検討を加えた。この筋付着部はSARASIN(1932)によってヨーロッパネアンデルタール人の特徴の一つとされたものである。しかしながら著者はこの筋付着部が他の化石人骨や縄文時代人にもよく発達していることを見た。従って母指対立筋付着部はネアンデルタール人のみに発達しているものではなく,先史時代人一般によく発達しているものといえるのではないかと思われる。