摘要:ヒト赤血球にあるメトヘモグロビン還元触媒酵素NADH diaphoraseは先天性メトヘモグロビン血症の患者に欠損または低活性の異常型を示すことが知られていたが,最近電気泳動によるいくつかの人種集団をふくむ多数例の調査から本酵素には正常健康人でも1%程度の頻度に単純な遺伝を示す数種変異型が存在することが見出された.著者はマカク属サル集団における遺伝変異検索の一環としてアジア産6種マカクの血液試料538例を対象に同酵素のマカクにおける表現型の検索を試みた.でんぷんゲルを用い溶血液を電気泳動すると泳動度の相違から全試料中に6種の酵素成分を検出しうる.そのうち2種成分は試料保存中に生じたおそらく conformationalisomer であろうことが新鮮血試料の経時的観察から推測され,本試料中に本来4種の電気泳動的に異なる酵素成分が見出されることそして6種表現型が区別されることが提案された.本酵素型の遺伝様式を決定する直接の証拠は未だないがマカクにおいて本酵素は多型的であると考えられ各種サル集団に観察される表現型の分布はある常染色体上の4種対立遺伝子の存在を仮定した分布とよく一致しさらに調査されたマカクの種間および同種(M. irusの場合)でも地域集団間に著しい表現型分布の相違が見出された.さまざまなマカクにおける実際の本酵素表現型の分布を判断するには本報告の各集団の検査試料が少数すぎるが,観察された特徴的な表現型分布から調査されたマカクの各種は仮に1)M. fuscata, M. speciosa,そして少数例であるが M. ne-mestrina; 2) M. cyclopis,フィリピンの M. irus; 3)タイおよびマラヤの M. irus; 4)M. mulatta の4群に分類される.これは今までのさまざまな血液蛋白変異の観察結果と異なる点があり今後の調査が待たれる.