摘要:H0PKINSON, SPENCER and HARRIS(1963,1964)は,でんぷんゲル電気泳動を用いてヒト赤血球中の酸性 Phosphatase に5種類の異なる表現型を見出し,家族調査から3種の常染色体対立遺伝子 Pa Pb Pc に規制される新しい遺伝的多型であると報告した。これらの表現型A, BA, B, CA, CB はゲル上の泳動の位置及び量の差により区別され,その後仮定された6番目の表現型 C は LAI, NEV0 and STEINBERG(1964)により発見された。又 HOPKINSON ら(1964)は酵素活性を測定して,表現型ごとに異なる活性値を有し各ヘテロ個体の活性はホモ個体の略平均であることを示した。さらに人種集団における酸性 Phosphatase 表現型の分布に特異的な差異が見られている。GIBLETT and SC0TT(1965)は, Pc 遺伝子の関与する表現型がかれらの Orientals の試料(殆んどが日本人)及び Northern Japanese の試料(アイヌ)で全く見られなかったと述べている。日本人の同酵素表現型の変異は,既に後藤(1964)の報告があり,3種類の表現型のみが見出されていたが,われわれはさらに多数の試料を調査して下記の結果をえた。千葉県で採取された462個体の血液試料に関し赤血球酸性 Phosphatase 表現型は A, BA, B の3種類が見出され,その遺伝子頻度Pa=0.189は前述の日本人等に於る分布及び頻度とよく一致した(Table1)。同酵素活性の測定は96個体の試料で3種表現型間で著明な差異が認められた(Table 2)。ABO 血液型及び血清 Haptoglobin 型と酸性 Phosphatase 表現型の分布は互いに関連しないと考えられる(Table 3)。でんぷんゲル泳動における緩衝液は,succinate-tris-citrate system, pH 6.0(HOPKIN-SON ら1964)及び formate buffer, pH 5.0(GIBLETT and SCOTT,1965)を用いた。後者は原著者らにより CA, CB など C の関与する表現型の判定は不能とされているが, B 及び BA 表現型の判定には非常に有効であった。赤血球酸性 Phosphatase 表現型の分布に関し,現在までに報告されているいくつかの集団間で比較が試みられた(Table 4)。